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 ワゴン車のカーゴ・スペースがいい着替えの場所になるので、マルセルが運転、治子は助手席に乗ってロワール地区を目指す。岡谷とマルセル以外の夜間飛行舎のスタッフはべつの車輌で。  肩や胸元、それに背中を露出し、白いレースの長い手袋に宝冠(ティアラ)面紗(ヴェール)を着用したウエディングドレス姿の治子は、まるでファンタジーの世界のような、ほかの古城(シャトー)とはちがい、地味ではあるが雰囲気の落ち着いた古城、ユッセ城を背景に写真を撮った。  周囲は、治子が俳優かなにかかとかんちがいした見物客があふれている  「これってあとでXやインスタに拡散されるコースよね絶対」と治子は岡谷やマルセルに笑ってみせた。  「……少なくても……特殊部隊の人間のコスプレ画像が世界規模で拡散されるなんてちょっとまずいんじゃ……」  とはいっても、治子はなんとも思わない調子で言った。問題になるのなら、すでにピンクの髪色からしてアンティセプティック・チームにスカウトされることもなかったろう。  帰り道、運転をするマルセルは治子に眠っても大丈夫だと勧めたのだが、治子はけっこう気分が高揚したのか眠気はなかった。  「そうそう、治子は岡谷さんから話は聞いたかしら?」  と、背後に流れていくパリ郊外の風景を眺めていると、マルセルが治子に質問をした。
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