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 そのような理由で、現在パリへの魔界ポータルは、魔界ポータル作動のための(オルゴン)エネルギー温存のため使えなかった。まだまだ(サント)パルーシア学園は復旧の目途(もくと)が立っていないのだった。  いよいよ地上が迫ってくる。治子はコットンキャンディ・チーム全員と同様に、着地した荷物のパレットのすぐ近くに降下する。岡谷は不慣れなため、パレットよりずいぶん離れたところに降下してしまった。  「岡谷さん、大丈夫? 怪我はない?」  と、治子は気づかう。  不思議なことに、パラシュート降下の実地訓練で最初だけは皆無事に着地できる。ある程度慣れてからが着地時に捻挫や骨折など怪我をしやすい。  「こちら岡谷、身体はなんともないんだけど、けっこう風に流されてしまいました」  「なにもなくてよかった……パラシュートを畳んですぐにこちらへ」  すでに現地の工作員が仏軍のグリフォン多用途装甲車や軽トラックにパレットの荷物を積み込んでいる。コットンキャンディ・チームのメンバーと荷物は二輌のグリフォンへ、治子と岡谷の荷物は軽トラックに。  コットンキャンディ・チームを乗せたグリフォン装甲車はすぐさま降下地点に選ばれた広大な土むき出しの空き地から去ってゆく。  「あなたが治子さんね。ときどき噂を聞くわ。民兵組織が根城にしているスラム街をたった一人で壊滅させたとか……わたしは夜間飛行舎(エディシオン・ヴォル・ド・ニュイ)のミショー。名前のマルセルでかまわないわ」  「お世話になります」  治子はマルセルの流暢な日本語に驚いた。  岡谷も不思議そうな顔をしている。  「わたしはもともと日本に住んでいたのよ。本国へ帰ってきたのが後期中等教育機関(リセ)[*1]のころだったの。それはそうと、とにかくわたしたちもここから撤収しましょう」    [*1] 日本の高等学校に相当。
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