II

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 「本当に、それで大丈夫かな? なにせ例のなんて欧州最大のタブーでは?」  と、岡谷がマルセルに尋ねた。そのフェティッシュ・ファッションのカレンダーに使う写真の一部はすでに撮ってある。岡谷は画像作業用のノートパソコンと、数枚の1TB容量、SDXCカードをいくつか持参していた。  まったく画像データを圧縮や加工していないRAW形式のデータでも、1TBなら約50,000枚が撮れる計算だが、岡谷は製作過程でなにかあってはたいへんなので、別のSDXCカードやパソコンのハードディスクにも二重にバックアップをとっている。  「販路はもう信頼のおける業者さんに委託してあるの。本当に地下出版ね。たしかに、治子はエディシオン・ヴォル・ド・ニュイ(うち)から刊行する、エディシオン・ノワール……英語ならブラック・エディション……の企画にぴったりだわ。写真写りがとてもよさそう。まさにフォトジェニック、インスタジェニック……!」  嬉しい! と、治子。  「ただ、マルセル、わたしはああいう制服が似合うほど、Sっ()があるわけでもないの。なんか誤解されてるな……」  「それでも需要があるのよ、Mっ気のある男性たちから。それに、男尊女卑的な社会への反撃、恰好よいヒロインとして」  マルセルは運転をしながら微笑んだ。治子はうーん、と少し考え込んでいる。  シトロエンC3は、夜間飛行舎(エディシオン・ヴォル・ド・ニュイ)の一階ガレージに停まった。すぐにガレージのシャッターが下りる。
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