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マルセルは、治子と岡谷を社長をふくめ社員たちに紹介した。とはいっても全部で五人しかいない小さな出版社だった。マルセルはほかの社員がそうであるように、編集、営業、調整などいろいろな業務をこなす。
社長は、マルセルよりも五、六歳上のようだった。社長はまだ稚い極東の中学生にして特殊部隊員に興味津々だった。
「エディシオン・ヴォル・ド・ニュイは魔界の著作も刊行しているよ。葉桐薫くんの書いた『生かさず殺さず』やエーリッヒ・リーゼンフェルトの『魔界概論』、それに、カール・レーフラーの『魔界に於ける転倒神学試論』なんかをね」
「えっ、薫のあの本まで……! 凄いですね」
マルセルが反応した。
「『百合』なのよね、治子と薫の関係は」
そう言ってすぐ、マルセルは「百合ね、百合。日本語で表現しないと意味の通じないことばだもの」と訂正した。
ところで、と夜間飛行舎の社長が切り出す。
ハルコの──と一応Hも発音するつもりなのは伝わるものの、まだ実際の発音は、ハとアの中間のような発音だった。
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