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高嶺の誰と一緒になるの?
副理事長室が校長室より広いというのも、あんまり例がないかもしれない。だが綺集院財閥にクレームをつける命知らずはどこにもいない。
ここは王道高校二年特進クラスの生徒で、綺集院財閥の後継者、上杉明日香こと綺集院香蓮の執務室。実際には悠馬とのデート室。
長ソファの上、悠馬は夢のような思いで、片方だけの靴を差し出す。
隣に座っていた明日香が、自分が今まで預かっていた悠馬の靴を取り出す。ふたつの靴を、明日香自ら悠馬に履かせる。
「ピッタリ。はいっ、悠くんは私のシンデレラボーイ。これで私の花婿になること決定。高嶺の花との恋を実らせるという約束、ちゃんと守ったでしょう」
明日香は幸せそうに悠馬に頬ずり。
「婚約旅行はどこにするか、今から考えておこうね」
「ええーっ、婚約旅行なんて」
「世界一周でいいね」
「学校はどうするんですか?」
「いいの。私、副理事長だから、どうにでもなるから心配しないで。悠くんひとりが喜んでくれればそれでいいの」
「あの、やっぱり、そんなこと、いけませんよ」
「いいの。私、副理事長だから。悠くんひとりが喜んでくれればそれでいいの」
確かに超人となった明日香は強い。だが超人より強い者もいるかもしれない。
突然、窓ガラスがけたたましい音で割れた。次の瞬間、目の前には、青森県に帰ったはずの明音の姿。薙刀を上段に構え、明日香を見下ろしている。
「な、何なの、あなた。不法侵入でしょう」
「すまぬ。青森から朝井くんを迎えにきた」
「今さら何言ってんの。悠くんは私の婚約者でしょう」
「だから『すまぬ』と言っている。分かってくれ」
「出ていかないと私の親衛隊呼ぶからね。可愛い悠くんは誰にも渡さないから」
明日香が見せつけるように、額、頬、耳、そして口と、悠馬にキスを繰り返す。
「や~~い。悠くんは私ひとりの者だから。あなたなんかに絶対渡さないから」
「それでは試合を申し込む。勝った方が朝井くんの婚約者の権利を得る。これでどうだ」
「そんな試合、受けつけないから!」
またまた大きな音。今度はドアが勢いよく開けられる。
ウェデングドレス姿のアリスが、花蘭に付き添われて入って来た。
「黒薔薇さん、どういうつもり?」
「この前、開催されたニーチェのコンテストで朝井くんは見事、優勝致しました。婚約者として朝井くんを迎えにきました」
「散々、悠くんを苦しめといて何言ってるの?」
「私ではありません。みんなここにいるラスボスのヒール・花蘭、そして教室と階段の掃除当番に落ちぶれた松下、宇野の陰謀だったんです。可哀そうな私は陰謀に利用されていたんです。ラスボスの美園花蘭、そうだね」
「は、はいっ。私はラスボスです。これからはヒール・花蘭とお呼びください」
花蘭が力なくつぶやく。
「さあ、朝井くんのためにも私と試合をしてくれ」
「誰が悠くんのためなの?」
「さあ、コンテスト優勝者の朝井くん。私と一緒に……」
「勝手なこと言わないで。可愛い悠くんは私、ひとりの彼氏だから」
「だから試合をしてくれ。私の彼氏にする」
「違う。私の婚約者じゃん」
悠馬をほったらかしに、三人の激論は続く。
そっとドアの外から市川さんが顔をのぞかせた。ソファで、どうしたらいいだろうかと困り果てている悠馬に手を振る。
悠馬はドアのところに駆け寄る。明日香たちはまったく気づかない。
「市川さん、こんにちは」
市川さんは悠馬の右手を握った。そしてそのまま、廊下へ飛び出していった。もちろん悠馬も一緒である。
「市川さん。ど、どこ行くんです」
市川さんはニコッと笑う。
「私たちのスィートルーム」
「そ、そんな。困ります!」
そして明日香の絶叫!
「私の悠くんはどこ?」
to be continued……
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