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悠馬への包囲網
放課後の補習室。今、この部屋では特別な補習が行われている。生徒はふたり。
一年特進クラスのクラス委員の松下真也。
そして二年特進クラスのクラス委員の遠山一。
ふたりとも女子の人気も抜群のイケメンである。
ホワイトボードの前で講義をしているのは四十代後半のスーツ姿の女性。大京大学の教授、光田とし子。ニーチェの専門で、国際ニーチェ学会の理事も務めている。椅子に座って控えているのは東北弘前大学の教授、雪村春樹。同じくニーチェの専門家である。
松下と遠山の後ろで、この様子を見守っているのは、黒薔薇アリスと美園花蘭。
「あなたたちは、私が婚約者候補になっても構わないと認めた生徒です」
アリスは完全な上から目線の対応。
「私に感謝してひざまずき、『ニーチェについての論文発表コンテスト』で優勝してください。ふたりのw優勝と結果は決まっているから」
松下と遠山は席を立ち、アリスの前にひざまずいた。
「ハハーッ」
光田教授が胸を張る。
「まかせなさい。ニーチェを何も知らない人間でも、私の講義を受ければ、短期間でニーチェの専門家になれます。何といっても、私はプラトニックでニーチェと結婚した女ですからね」
光田教授は自信たっぷりである。
「お願いします。おふたりには、コンテストの審査員もお願いしていますので、そちらの方もよろしくお願いします。朝井悠馬の論文を徹底的にディスって、目の前で論文の原稿をビリビリと破ってください」
「会長、破るだけでは足りません。論文を足で踏みつけ、火をつけて、朝井悠馬を徹底的に辱め、朝井の彼女の上杉明日香の精神を粉々に破壊しましょう」
「花蘭、それって面白いじゃん。光田先生、どうかよろしくお願いします」
「まかせなさい。私の言葉はニーチェの言葉。朝井悠馬とかいう素人の論文など、ティシュペーパーの価値もありません。ニーチェのプラトニックの妻であるこの光田が叩き潰してやります。ホーホホホホホホ」
何ということだろう。最初からコンテストの結果は決まっていたのか? このままでは、悠馬はせっかくの論文をゴミ扱いされ、徹底的にディスられ、学校の笑いものになることは間違いない。
明日香! こんなコンテストに悠馬を出場させてよいのか?
ふたりの破滅の刻限が近づいている。
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