高嶺の花の彼女

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高嶺の花の彼女

 その日、悠馬が帰宅するとメール便で手紙が来ていた。  高嶺の花の綺集院香蓮からだった。悠馬は自分の部屋で勉強机に向かい、姿勢を正した。 <しばらく手紙を送らなくてすみません。私、ずっと朝井くんのことを見守っていますからね。  色々と苦しいことがあると思います。私も辛いです。でも朝井くんは、やさしい心の少年のままでいてください。約束ですよ>  悠馬は手紙のずっと向こうにいる香蓮に深々と頭を下げた。 「裏SNSで、ずっと悪口を言われています。僕だけなら我慢します。だけど、関係のない桜井さんとかを巻き込んでいるんです。裏SNSを調べてみて分かりました。今のままだと、僕、回りの人まで巻き込んでいくみたいで、とっても悲しいんです。僕、どうしたらいいんだろうかと、毎日、思ってます」  一言、一言、心をこめて顔も知らない香蓮に伝える。けれども返事はない。ポロポロ涙がこぼれた。  涙が机に落ちるのを、悠馬が見ることはなかった……。机の上で眠ったまま、悠馬は夢を見た。  すぐそばで、誰かが話しかけていた。髪をかきわけられていた。 「悠ちゃんはなんにも悪くない。悪くなんかないんだよ。心が優しくてあたたかいって、素晴らしいことじゃない。そんな人間が辛い思いをする世の中が間違っているんだよ。悠ちゃんは力で強くなる必要なんてない。『超人』がすぐそばにいるから。少し待っていて。きっと助けに来るから……」  悠馬は夢から覚めてあたりを見回した。勉強部屋には自分ひとりしかいない。  本当に、ただの夢に違いない。けれどもどこか懐かしい声だった。誰の声だったろうか?  悠馬は何も知らない。  玄関をそっと出ていく人の存在を……。  夢なんかじゃなかった……。 「何だかご心配をおかけしたみたいですみません」  悠馬の祖母の恐縮した声。 「はい、間違いなく悠馬には黙っておきますから」
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