高嶺の花からの贈り物

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高嶺の花からの贈り物

 悠馬の父は小学校に入る前に亡くなり、その後、悠馬の母は制限勤務で働き、悠馬を育ててきた。  その母も悠馬が中学二年の三学期に亡くなった。  そして中学三年の夏休み。悠馬の青春が大きく動きはじめたのである。  突然、悠馬は大きな小包を受け取った。リンゴのケースくらいの大きさだった。  差出人は、「綺集院香蓮(きしゅういんかれん)」と達筆な筆文字でしたためてあった。濃淡が素晴らしいので、間違いなく筆ペンなんかじゃなく、小筆を使って書いたのだ。  綺集院といえばすぐに綺集院財閥が浮かんでくる。  箱には、プライベートで着るおしゃれなシャツとパンツ、シューズが入っていた。サイズもピッタリだった。悠馬が欲しかったタブレットも入っている。どれも、ひと目でブランド品だと分かった。そのうえ、綺集院コンツェルン関連の店舗で伝えるクーポン券が十万円分入っていた。  そして和紙の便箋に、筆で書かれた手紙が入っていた。 <拝啓     初めてあなたに手紙を書きます。私は綺集院コンツェルンの社長の長女です。つい最近、雑誌を読み、あなたがまだ中学三年生なのに、自分の出来る範囲で困っている人を助けていることを知りました。公園の清掃や児童福祉施設のボランティア団体にも加入しているなんて、本当にすごいと思います。どうか、あなたを応援させてくれませんか?  よかったら私のプレゼントを受け取ってください                             敬具>                                                              ネットで調べてみると、綺集院財閥に確かに香蓮という後継者の女性のいることが分かった。年齢は二十代とも云われるが、ハッキリしたことは分からないらしい。  wikipediaをチェックしたら、綺集院財閥は伝統により、代表や後継者の男女は、代々、同じ通称を名乗るんだという。香蓮も別に本名があるのだろう。  悠馬にとっては縁のない高嶺の花である。  「雑誌を読んだ」と書いてあったが、地域のミニコミ誌に掲載されたくらいで、そんな記事を財閥の令嬢が読んでいるなんて信じられなかった。  それでもこんな心のこもった手紙を貰ったことが嬉しくて、すぐに返事を書くことにした。 <拝啓  僕は筆で手紙を書くことが出来なくてすみません。とってもステキなプレゼントを頂いて感激です。いつもプライベートでは、頂いたシャツとパンツを身に着けています。タブレットも勉強に役立っています。  僕の家は母子家庭で、母はとっても苦労したと思います。けれども僕には、 「私たちは、みんなに助けてもらって、こうして毎日生きているんだからね。お母さんは勤め先や地域の人たちから、本当にお世話になった。だから私たちが誰かを助けることが出来るなら、きっと力を貸してあげようね」 と繰り返して言っていました。  母が亡くなってから、その言葉が心に深く刻まれるようになりました。母と一緒に始めたボランティアだけれど、ぜひいつまでも続けていきたいと思っています。  綺集院さんのプレゼントに勇気を頂きました。ぜったい忘れません。                                 敬具>  筆ペンで心をこめて返事を書いた。元々、字を書くのは上手だったが、これを機会に自分が所属している「虹色クレヨン会」の一員である書道の先生から、本格的に書道を学ぶことにした。 「虹色クレヨン会」は、公園の清掃や児童福祉施設の慰問を行うボランティア団体だった。悠馬は亡くなった母親と一緒に、この団体に参加していた。  特に返事は来なかったが、悠馬は香蓮への感謝の気持ちを忘れなかった。  
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