高嶺の花からのアドバイス

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高嶺の花からのアドバイス

 綺集院財閥の令嬢なんて、悠馬には「天の上の人」を通り越して、「銀河系宇宙の方」。それでも悠馬は、暑中見舞いを心をこめて筆で書いて送った。  二学期に入ってからのことだった。突然、「銀河系宇宙の方」から手紙が送られてきた。またクーポン券が十万円分同封されていた。 <……王道高校に進学しなさい。あの高校は政財界ばかりか医学や芸術の分野で、たくさんの大物が卒業しています。朝井くんだって大物になれば、自分の立場をよいことに利用して、今までよりもっとたくさんの人を助けることが出来るんです。  よく聞いてください。私、いばったり、お金儲けしか考えない人ではなく、朝井くんのようなステキな人に、将来、大物になって欲しいんです。  「王道高校特別奨学生」の案内を送ります。いいこと? きっと申し込むのですよ>  何だか、優しいお姉さんに言われているみたいだ。たぶん悠馬より年齢は上? 二十歳を越えてるのだろうか?  香蓮の名前は出さず、王道高校のことを三年の担任の野田先生に報告してみた。 、 「ハハハハハハハハ。朝井、君は中学三年生だろう。夢を見るのは寝るときだけにしろ。君の成績は上位だが、あの学校は名門校だ。いいか、名門校なんだ。『特別奨学生』だと? 君なんかの成績で絶対に選ばれるはずがない。選ばれるはすがないじゃないか」  何だかずいぶんひどいこと言われています。 「それにだ。あそこは私立で学費もものすごく高いから、通っている生徒も経済的に恵まれた家庭の人間ばかりだ。こんなことを言いたくない。だがしかたなく言う。おばあさんとふたり暮らしの君が、経済的にも苦しい君が、とても通えるところじゃない。やめろ、やめるんだ。朝井、ムダなことはやめるんだ」  なんとまあ、これってアカハラの一種じゃないのでしようか?  だが奨学生なんて、簡単になれるはずがないことはよく分かった。それでも悠馬はどうしても香蓮のアドバイスを無視するなんて出来なかった。  「王道高校特別奨学生」の申込書を書き、香蓮の手紙をアイドルのチェキのように丁寧に額に入れ、勉強部屋の壁に貼り、毎日真剣勝負で勉強してみた。試験勉強の進み具合について、何通も香蓮に手紙を書いた。 <僕、頑張ります。だけどアドバイスに応えられるか、とっても心配です。それでも僕のことを信じて下さる綺集院さんを絶対裏切りたくありません>    香蓮からは一回、色紙が送られてきた。 <朝井くんなら大丈夫 私も信じています>  十一月。第三日曜日が、「王道高校特別奨学生試験」の日だった。  試験の数日前、香蓮から、高校までのタクシー代が送られてきた。香蓮の気持ちが嬉しかった。
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