上杉明日香、もうひとつの正体

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上杉明日香、もうひとつの正体

 明日香はマイクを片手に客席を見回した。 「ここで私のもうひとつの名前を教えておきます」  次に審査員席に目を向けると、今までにない冷酷で残忍な表情を向けた。 「綺集院コンツェルンの後継者、綺集院香蓮。今後、王道高校の副理事長を務めることになります。理事長は父が務めます。よろしく、黒薔薇社長、生徒会長」  アリスが目を見開き、首を激しく横に振る。 「ウソ、そんなの絶対にウソ」  アリスが顔を覆って泣き始める。孔雀はすべてを悟ったのか、ガックリと肩を落としてつぶやいた。 「もうイヤ。この子、綺集院財閥が王道高校を支配する準備のため、この高校に入学してたのね。奨学生なんて名乗って私たちを油断させるなんてフェアじゃないわ。もうキライ!」  孔雀はそのまま口から泡を吹いて失神していた。二台目の救急車が到着した。  悠馬は信じられない思いで明日香を見つめている。明日香は時々、悠馬に流し目を送っていた。 「私は父の愛人の子として生まれた。絶対に母を苦しめた綺集院財閥になんか関わる気なんかなかった。薙刀に一生を捧げるつもりだった。父からの綺集院財閥入りの誘いもずっと無視してきた。父は王道高校に私を入学させ、この高校の実質的な経営者にするつもりだったけれど、私にはそんな気はなかった。けれども悠くんに出会ったことで考えを変えた。上杉明日香の名前から、綺集院財閥の女性後継者が名乗る綺集院香蓮を名乗ることにした。私をその気にさせてくれた人たちに感謝します。これからは綺集院財閥の後継者として、この高校を治めていきます」  市川さんがステージに駆け上がって来た。 「市川さんには、父とも関係の深い大手流通企業『マイン』の後継者として色々とお世話になりました。貴重な証拠を隠し撮り用のカメラに撮影してくれたのです。一年特進クラスの見苦しい顔の宇野くん、すぐステージに来なさい」  宇野が心神喪失、フラフラの状態でステージに上がってくる。完全におびえ切った表情で下を向いている。明日香の薙刀が揺れ動いた。 「キャーーッ」  次の瞬間、宇野は悲鳴と共に、ステージを転げ回っていた。 「許して、許してください」  宇野の泣き声がいつまでも続く。松下は白目をむいて、この様子を見つめていた。瞬間、明日香の天を衝く叫びがホールに響きわたった。 「宇野、お前は愚かな人間だ。悠くんに回し蹴りをした貴様が、私の後ろを歩いていた。学校の中庭では女子薙刀部が練習をしている。お前たちのみすぼらしい頭で考えた計画に気づかない私だと思っているのか。お前が私の背中を押した瞬間、事務室の前で悠くんに暴力をふるった瞬間、すべてここにいる私の協力者、市川さんがカメラに収めていたのだ。もう言い逃れは出来ない。お前の父親は綺集院財閥の関連会社で重役を務めているが、これから私がどうするか思い知るがよい。そこにいる松下。お前の父親は国会議員になりたいそうだが、綺集院財閥を敵に回してどうなるか分かっているだろうな。退学して逃げ出したいか? 自主退学は認めない。退学したければ学校の処分による強制退学のみだ。学校を逃げ出しても、王道を強制退学になったお前たちは、どこの学校も相手にはしてくれない。もう未来はないのだ。いいか、私は『超人』だ。気に入らない人間は全て地獄に落ちてもらう。私が正義だ。異議は認めない」  遠山も松下も宇野も、そしてアリスも花蘭も口から泡を吹いて失神していた。この日、王道高校には六台の救急車が駆けつけることとなった。  上杉明日香こと綺集院香蓮の完全勝利の瞬間であった。
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