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悠馬に近い上杉明日香のこと
「おはよう。今日はどんなミステリー持ってる? またドイツ?」
明日香が駆け寄り、軽く悠馬の肩を叩く。いつだってフレンドリー。
悠馬の父親は高校の社会科教師で、大学時代はドイツ語を専攻していた。と、いうわけで悠馬は父親の影響で、英語よりドイツ語が得意だった。ミステリーのファンで、今では亡き父が残したドイツのミステリーを読むのが楽しみである。
「はっ、はい」
悠馬は頬を赤く染めて答える。明日香が悠馬の上半身を軽くなでて、ふたりで肩を並べて歩き出す。いつもの習慣である。
上杉明日香。二年特進クラス。そして定期テストは学年一位。
身長は高く一メートル九十センチ近くある。セミロングの黒髪に色白、分厚い眼鏡をかけ、決して眼鏡をはずすことはなかった。水泳のときには、眼鏡の上から水中眼鏡をかけていた。よく見れば、ブレザーの下のブラウスの胸が大きくふくらみMカップ。そしてそれと同じくらい太腿が、スカートがはちきれそうになるほど大きかった。マシュマロのように白く大きくフワフワにふくらんでいる。黒のハイソックスが白く大きな脚を締め付け、今にもビリビリ破れそうである。
成績はトップでも「陰キャラ」で「ボッチ」、無口で地味な雰囲気のため、二年の男子は誰も興味を持たなかった。納得出来ないことがあると、そのときは強い口調で意見を言う。そのため男子ばかりか女子からも嫌われていた。
誰も考えたこともない。明日香は間違った主張をしたことなんかないのだけど……。
それに正面からしっかり見れば、知的な雰囲気の美人だというのに、人を見る目のない男子がいかに多いかという証明である。結婚できない男が多いのも当然かも……。
母子家庭で、エレベーターのない古いマンションに住んでいることも、明日香の立場を最底辺まで押し下げていた。
「知ってる? 上杉って、母親と不倫相手との間の子どもなんだって」
「母親は男に捨てられて、今ではパチンコ屋の掃除してるんだって」
「奨学生として入学。何でこんな女が選ばれるの」
「何で上杉なんかが、学年トップなの?」
「世の中、間違ってる。狂ってるんだ」
「オレの親父が、もうすぐ総理大臣になって、世の中変えてくれるよ」
こうして上杉明日香は、二年間、クラスカーストの最底辺に定着している。
だが明日香は平気。クラスメイトに嫌われたって、明日香には気にする様子もない。そばに悠馬さえいれば、それでいいのだ。
クラスメイトに絡まれているとき、弱虫の悠馬が勇気を出してピンチを救ってくれた。それが何と二回。明日香は授業のとき以外は、悠馬にピッタリ密着していた。
「ねねっ。今度、コンテストがあること知ってる?」
「はい。クラスでもずいぶんと噂になってます」
「優勝は、生徒会長の花婿候補になれるらしいよ」
「黒薔薇先輩のですか」
悠馬も少し驚いたように声をあげた。
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