高嶺の花の黒薔薇アリス

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高嶺の花の黒薔薇アリス

 明日香と悠馬、ふたりの会話に登場した黒薔薇(くろばら)アリス。  王道高校二年特進クラスで、成績は一年、二年と明日香に続いて学年二位。そして王道高校生徒会長。  夫の跡を継ぎ、黒薔薇カンパニーこと黒薔薇財閥を大きく発展させた社長の黒薔薇孔雀(くろばらくじゃく)のひとり娘。黒薔薇財閥は日本を代表する綺集院財閥(きしゅういんざいばつ)にははるかにかなわないものの、超特大企業であることは間違いない。  黒薔薇アリスは、まさしく男子生徒にとって高嶺(たかね)(はな)。  一年のとき、アリスが組織した「王道高校生徒委員会」は、実際にはアリスの親衛隊なのだが、男女の区別なく入会希望者が殺到。入会を断られたショックで、メンタルになった生徒も多数いる。  まさしく王道高校のカリスマ生徒会長。そして未来の黒薔薇財閥の後継者。  だがクラスカースト最底辺の朝井悠馬だけは別だった。アリスなんかに少しも興味なかった。  そのため、特にコンテストの話題が続くこともなかった。  それにしても明日香は、よくコンテストの詳しい情報を知っていたものである。やっぱりライバル関係にあるからだろうか?  ふたりで一緒に歩きながら、時々、明日香は、悠馬をじーっと見つめていた。母親が我が子を心配するような表情だった。何か心配事があるのだろうか。今、話題に出た黒薔薇アリスに関することだろうか?  不意に明日香が、悠馬の身体をそっと抱いて自分の方に引き寄せた。近い、近い。悠馬は顔を真っ赤にして、ガチガチ歯を鳴らしている。 「せ、せ、せ、先輩」 「桜井さんのこと聞いた」  児童福祉施設の桜井日名子のことだ。悠馬が留守のとき、急に明日香が家を訪ねてきたことがある。そのとき、祖母からボランティアのことを聞いたのだろう。 「『自分なんか、もうダメだ』 って泣いている子に、朝井くんはやさしくあたたかく、正面から向かい合ったんだよね。本当に朝井くんって……」  明日香は身をかがめて悠馬に頬ずりする。 「先輩。あの、その……。や、やめましょう」  明日香は夢見るような口調でつぶやく。 「私、大好きだな」  悠馬はフラフラと身体を崩し、そのまま明日香に支えられて駅に向かった。  毎朝、上杉明日香と朝井悠馬のふたりは、一緒に駅に向かう。  列車に乗り、もよりの駅で降りて王道高校に向かう。今日だって同じ。  それじゃあ、朝井悠馬は明日香の彼氏なのか? と、いうと実はそうではなかった。悠馬には、綺集院明日香という高嶺の花がいるから……。  年下男子と年上女子の親友同士なのは確かである。          
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