プロローグ

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𓂃𓈒 ❅ * 「……ってことがあったの。仕事が忙しいとか言って浮気する時間はあるんじゃん。そのくせ、私が同期飲み行くと怒るの。なんなの、ねえ、なんなの!?」 約一時間後、私は会社帰り良く利用する大衆居酒屋にいた。 「え……お気の毒としか」 テーブルを挟んだ向かいで愚痴を淡々と聞いているのは、私に呼び出された同期の東雲しののめだ。残業中だったらしい東雲はネクタイを緩め、良く似合うスーツを着崩している。 東雲は損なタイプだと思う。さわやかに整った抜群のルックスをお持ちなのに、あまりに無骨。 感情の機微が少ない東雲とは打ち解けるのに時間がかかった。けれども、一度打ち解けてしまえば他の同期に心配されるほど親密な関係へと変化を遂げた。 私が呼び出すといやいや言いながら結局来てくれる、稀有な男だ。 欲を言えば、もう少し、もうすこーしだけ愛想良くしてくれると助かるのだけど、如何せん、表情筋の使い方を知らない男は釣れない。 「ねえ東雲くん?ちょっとは本気で慰めようよ」 「あー、うん。ドンマイ。男見る目無さすぎて泣けてきた」 化粧映えしそうなほど綺麗な二重の目と視線が交わう。その目は気怠さを纏っており、全然本気じゃないのが伺えた。出したかったため息を吐き出す。
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