30 輝ける魔王城

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 ニコスは槍を騎士に突き出した。 「ネクロザールが師を望むと言うなら、我らも共に行くまで!」  馬上の騎士は、微動だにしない。 「ならぬ! 陛下は、汝ひとりをお望みだ!」  セオドアが剣を振りかざす。 「魔王に伝えろ! お前の命は風前の灯火! お前ひとりで我が陣営に降るのが筋であろう! なぜ勝者である我らの師匠が、お前に従わなければならないのだ!」  しかしエリオンは、取り囲む勇者たちの輪から抜け出し、「承知した」と白馬の騎士に近づいた。  勇者たちは「なりません!」と、次々に訴える。  ローブの青年は振り向いて、勇者たちに向けて両腕を掲げた。 「静まれお前たち! 私を信ぜよ。私の力で魔王の心を変えてみせよう」  途端、男の勇者たちは「師を信じます!」「魔王とて師匠の心に打たれよう」と、賛意を示し、各々の武器を納めた。  しかしカリマはひとり抵抗した。 「駄目だって! エリオン様! ひとりで行っちゃだめだ! だって、あんたは、あんたは……」  女勇者はホアキンに押さえつけられる。 「カリマちゃん、あんたは師匠が大好きだから心配なんだよね」 「好きとか関係ないって!」 「でも、あたしたちの師匠が魔王にやられるわけない。ひとりで魔王ネクロザールを改心させるよ」  鎧の魔王の騎士は馬を降り、エリオンに譲った。勇者たちの師匠は、振り向きもせず白馬に揺られる。 「お嬢ちゃん、わしらの師匠は普通の方ではない」  フランツ老人もカリマを宥める。  押さえ込まれながらカリマはなおも抵抗した。 (なんでみんな、エリオン様を平気でひとりで行かせられる? ああ、わかってるよ。みんなエリオン様の言うとおりにするしかないって。でも、それでも、あの人ひとりを魔王の元に行かせてはいけない! だって、だって……)  一行の中、唯一の女勇者は、馬に揺られながら消えゆくローブの青年に「行くな! 戻れよ!」と叫び続けた。  七年前。カリマの故郷ラサ村は、魔王の派遣する役人の支配下に置かれ、村人は苦しめられていた。  村を、終わりのない闇から救い出したのが、エリオンたちだった。  カリマの旅は、彼らに救われてから始まった。
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