31 旅立ちの理由

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「やっほ、カリマちゃん。難しい顔しちゃって」  カリマの小さな肩を、短剣使いのホアキンがポンと叩く。 「だって、これから本当に姉ちゃんの仇を討つと思うと、怖いよ」 「すごいよね。こんな可愛い女の子が魔王を倒そうなんて、よく決心したね」 「うん……でもあたし、本当はラサ村を出たかったのかも」  少女はふと立ち止まり振り返った。道の向こうに故郷がある。 「ああ、わかるなあ。カリマちゃんは、小さな村の狩人で終わる女の子じゃないもの」 「へへ、そんなんじゃなくて……」  愛想笑いで誤魔化した少女は、ひとりの男を思い浮かべる。  鍛冶屋の幼馴染マルセル。  物心ついたときから一緒で、兄のような存在だった。  姉シャルロットへの想いを行動に移さない彼に、苛立ちを覚えた。  カリマはシャルロットが殺された瞬間を見ていない。が、マルセルはその場を目撃した。罪悪感に打ちのめされたマルセルは一生、姉を忘れないだろう。  そんなマルセルから離れたくなった。そんな彼を見ていたくなかった。  幼馴染を嫌いになったわけではないのに。  ホアキンは、曇り空を目を向けた。 「あたしはさあ、エリオン様に出会わなかったら……ううん、あたしを救ったのがエリオン様でなければ、むさ苦しい男と旅なんかしないな」 「あ、あたしも……」  カリマは口を開きかけて閉ざした。 ――救ったのがエリオンでなければ?  出会いの時、彼は、弓を向けるカリマの頬を、優しく撫でてくれた。  乳のような肌、日に透かした葉のように輝く瞳、ブルネットの巻き毛。こんなに美しい男がいるのか。 (マルセルとは全然違うし、リュシアン義兄さんとも違うよなあ)  エリオンが美しくなければ、女勇者カリマは誕生しなかったかもしれない。
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