6人が本棚に入れています
本棚に追加
「やっほ、カリマちゃん。難しい顔しちゃって」
カリマの小さな肩を、短剣使いのホアキンがポンと叩く。
「だって、これから本当に姉ちゃんの仇を討つと思うと、怖いよ」
「すごいよね。こんな可愛い女の子が魔王を倒そうなんて、よく決心したね」
「うん……でもあたし、本当はラサ村を出たかったのかも」
少女はふと立ち止まり振り返った。道の向こうに故郷がある。
「ああ、わかるなあ。カリマちゃんは、小さな村の狩人で終わる女の子じゃないもの」
「へへ、そんなんじゃなくて……」
愛想笑いで誤魔化した少女は、ひとりの男を思い浮かべる。
鍛冶屋の幼馴染マルセル。
物心ついたときから一緒で、兄のような存在だった。
姉シャルロットへの想いを行動に移さない彼に、苛立ちを覚えた。
カリマはシャルロットが殺された瞬間を見ていない。が、マルセルはその場を目撃した。罪悪感に打ちのめされたマルセルは一生、姉を忘れないだろう。
そんなマルセルから離れたくなった。そんな彼を見ていたくなかった。
幼馴染を嫌いになったわけではないのに。
ホアキンは、曇り空を目を向けた。
「あたしはさあ、エリオン様に出会わなかったら……ううん、あたしを救ったのがエリオン様でなければ、むさ苦しい男と旅なんかしないな」
「あ、あたしも……」
カリマは口を開きかけて閉ざした。
――救ったのがエリオンでなければ?
出会いの時、彼は、弓を向けるカリマの頬を、優しく撫でてくれた。
乳のような肌、日に透かした葉のように輝く瞳、ブルネットの巻き毛。こんなに美しい男がいるのか。
(マルセルとは全然違うし、リュシアン義兄さんとも違うよなあ)
エリオンが美しくなければ、女勇者カリマは誕生しなかったかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!