32 はじまりの後悔

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 エリオンは、村長の老女に「これ以上滞在して迷惑はかけられない」と詫びて、戦士たちを率いて村を去った。  遺骸と凍り付いた男の身体を、戦士たちが運ぶ。  茂みの中に入ったところで立ち止まる。  エリオンは、縛り上げられた男の顔に手を翳した。たちまちのうちに、男は息を吹き返す。  巻き毛の美青年は、縛られた男に言い放った。 「ネクロザールに伝えよ。歪められた世界を正すまで、私はお前の元には参らぬ、と」  緑色の眼がギラギラと光る。男は無言でフラフラと立ち上がり、立ち去ろうとする。  エリオンは男の背中に呼びかけた。 「お前の仲間を見捨てて良いのか?」  青年の指先には、セオドアが切り殺した死体が転がされていた。  旅人の男は死体を担ぎ上げ、森の奥へ消えていった。  セオドアが眉を寄せた。 「師匠、逃してよろしいのですか?」  ニコスが割り込んだ。 「あの刺客にはたった今、エリオン様の恵みがもたらされた。我らに害をなすことはない」  セオドアが顔をしかめる。 「ラサ村の軍団長は、エリオン様のお力もむなしく、自害したが」  中年の槍使いが「うむ」と頷く。 「ネクロザールとて全ての部下の心を支配しているわけではない。ラサ村は重要な拠点ゆえ、忠誠心の高い部下に任せたのではないか?」  エリオンは男二人の会話を気に留めず、立ち上がった。 「これから、聖アトレウスの古都を目指す。長旅になろう。今夜は森を進んで野宿とする。よいか?」  六人の男たちは、なにごとも師匠の命ずるままにと、満足げに大きく頷いた。  カリマはただひとり、呆然と立ち尽くしていた。 (あたしがいけないんだ! 勝手に村に知らない人を入れて、セオドアの邪魔をして、みんなに迷惑をかけた!)  姉の仇を討つ旅は、青ざめた後悔から始まった。
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