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エリオンは、村長の老女に「これ以上滞在して迷惑はかけられない」と詫びて、戦士たちを率いて村を去った。
遺骸と凍り付いた男の身体を、戦士たちが運ぶ。
茂みの中に入ったところで立ち止まる。
エリオンは、縛り上げられた男の顔に手を翳した。たちまちのうちに、男は息を吹き返す。
巻き毛の美青年は、縛られた男に言い放った。
「ネクロザールに伝えよ。歪められた世界を正すまで、私はお前の元には参らぬ、と」
緑色の眼がギラギラと光る。男は無言でフラフラと立ち上がり、立ち去ろうとする。
エリオンは男の背中に呼びかけた。
「お前の仲間を見捨てて良いのか?」
青年の指先には、セオドアが切り殺した死体が転がされていた。
旅人の男は死体を担ぎ上げ、森の奥へ消えていった。
セオドアが眉を寄せた。
「師匠、逃してよろしいのですか?」
ニコスが割り込んだ。
「あの刺客にはたった今、エリオン様の恵みがもたらされた。我らに害をなすことはない」
セオドアが顔をしかめる。
「ラサ村の軍団長は、エリオン様のお力もむなしく、自害したが」
中年の槍使いが「うむ」と頷く。
「ネクロザールとて全ての部下の心を支配しているわけではない。ラサ村は重要な拠点ゆえ、忠誠心の高い部下に任せたのではないか?」
エリオンは男二人の会話を気に留めず、立ち上がった。
「これから、聖アトレウスの古都を目指す。長旅になろう。今夜は森を進んで野宿とする。よいか?」
六人の男たちは、なにごとも師匠の命ずるままにと、満足げに大きく頷いた。
カリマはただひとり、呆然と立ち尽くしていた。
(あたしがいけないんだ! 勝手に村に知らない人を入れて、セオドアの邪魔をして、みんなに迷惑をかけた!)
姉の仇を討つ旅は、青ざめた後悔から始まった。
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