33 誇り高い剣士の過去

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 彼はネールガンド領主の息子だった。  ネールガンド領主の家系をさかのぼると、聖王アトレウスにたどり着く。  代々の領主は高貴な血筋を誇りにしていた。聖王の直系が実権を失い大陸が乱れてから、領主たちはかつての聖王の栄光を取り戻すことを夢見ていた。 「しかし、ネクロザールがアトレウス様の生まれ変わりと名乗った途端、ネールガンドの我が家は反逆者の烙印を押され、私の両親も家臣も兵士らも全てを滅ぼされた」  カリマは言葉を失った。  剣士は静かに過酷な人生を語る。  当時セオドアは五歳で、乳母の手で救われる。しかし、救い出されたのも束の間、幼い頃から領主の忘れ形見は、刺客に狙われた。  彼がネールガンド領主の子であり、聖王の血を引いていたことが、ネクロザールには邪魔だったようだ。 「母親のように優しく振る舞う女に、毒を飲まされたこともあった」  男は苦笑いを浮かべる。 「お陰で、人の殺意は見抜けるようになった」 カリマに近づいた旅人を問答無用で殺害したのは、幼いころから命のやり取りを強いられてきた者の悲しい習性のようだ。 「ネクロザールは氏素性の知れぬ奴隷だったと聞く。賤しい男が偉大な聖王アトレウスを騙るなど、私は断じて許せぬ!」  セオドアは聖王の末裔として、魔王への憎しみを募らせる。  氏素性を問われると、カリマも取り立てて主張するほどの出身ではないため、耳が痛い。 「私は師と出会い、元凶のネクロザールを滅ぼすしかないとわかった」
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