34 それぞれの悲しみ

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 力持ちのセルゲイは、言葉をほとんど話さないが、ポツポツとエリオンとの出会いを語ってくれた。わかりにくいところは、ホアキンが補ってくれた。  人のいいセルゲイはその怪力を利用され、王軍の兵士として活躍した。煽てに弱い彼は、喜々として力を発揮し進軍する。  しかし彼は、王の代官より、貧しい女や老人から財物を取り上げるよう命ぜられ苦しみ、王軍を抜け出す。脱走兵となったセルゲイはエリオンと出会い、ネクロザールが正義の王ではないと知らされ、苦悩から解放された。  鍛冶屋のフランツ老人も魔王軍に利用された。彼は、娘一家を魔王の代官の人質に取られた。やむを得ず王軍のため、剣や槍といった武器を作って提供する。  フランツが良心に耐えかね武具の製作を拒むと、娘一家は殺された。  絶望のフランツ老人を救ったのが、エリオンだった。 「ジュゼッペ君も小さいのにひどい目にあったんだね」  仲間の悲しい過去を聞かされたカリマは、ここにいない魔法使いの少年を案ずる。  エリオンが悲し気にカリマを見つめた。 「ジュゼッペはまだ幼い。彼が語るまで待ってくれないか?」 「もちろんだよ、エリオン様」  誰も問いには答えないということで、少女は事情を察した。  まだ九歳の子供なのにこの仲間に加わっているということは……魔王軍に両親を殺されたのだろう。
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