34 それぞれの悲しみ

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 この夜も、カリマとエリオンは身を寄せて草むらに横たわる。 「あたしは姉ちゃんが殺されて悔しくて悲しかったけど、ここのみんなは、もっともっと悲しいよね」  エリオンの長い指がカリマの頬をなぜる。 「悲しみは人それぞれで比べるものではない。お前が愛する姉を失った悲しみは、お前だけのものだ。誰もその悲しみを変わってやることはできない。泣きたいときに泣けばよい」 「へへ。ありがと、エリオン様」 「勇ましい男は恋に嘆く者をあざ笑う。しかし恋しい者に想いを拒まれることも、悲しみには変わらないのだ」  恋?  世界を救おうと戦士たちを率いる師匠には、似つかわしくない言葉だ。 「へー意外だなあ。エリオン様が恋なんて」 「おかしいか? 恋は、人と人を結びつける聖なる力と思うが」  暗がりの中でも光る緑色の眼。 「うーん、エリオン様が誰かを好きになるって、考えられないもん」 「はは、それはひどいな。私だって人間だ」  カリマは、この美青年が好みそうな女性像を、なんとか思い浮かべる。 「そうだね。エリオン様も、姉ちゃんみたいな人なら好きになるかも……編み物も機織りも上手で美人で、村中の男たち、みーんな姉ちゃんが大好きで、お嫁さんにしたくて……」  ラサ村を今守っている幼馴染マルセルも、そんな男たちの一人だった。  非の打ち所がない姉が、なぜ殺されなければならなかった? 「ご、ごめん、エリオン様……あたし……」  シャルロットは親子三人でもっともっと幸せになるはずだった。彼女が聖王と聖妃の元に召されるのは何十年もあとのはずだった。  リュシアンとの間に生まれた大勢の子供たちと孫たちに囲まれ、静かに眠る……そのような終わり方に相応しい女性だった。  静かな涙をこらえるカリマを、エリオンはそっと抱き寄せた。
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