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「みえみえだよマルセル。姉ちゃんと話すときだけ、声がうわずって顔赤くして俯いてさ」
カリマが、頬を膨らませている。生まれたときから知っている小柄な少女。
男のなりを好む勇ましい少女が、男の恋心を見抜くとは。いくら見た目が男でも、女らしい心があるのだなと、マルセルは、恥ずかしく思うとともに感心する。
「シャルロットさんとリュシアンさんは、お似合いだからな」
カリマは腰にぶら下げた皮袋から、葉っぱの包みを取り出し、土間に広げた。
拳大の茶色い塊が現れた。
「これ鹿の干し肉。リュシアンさんから、狩りの褒美にもらっちゃった」
「カリマ! そんな貴重な肉、もったいないだろ!」
「可哀想なマルセルに、あげるよ」
「ははは。お前、いいやつだな」
カリマを子供と思っていたが、いつの間にか人を気遣える娘に成長したようだ。
小さな幼馴染の優しさがありがたく、マルセルは、カリマの赤毛をクシャクシャにかき回す。
「それなら、俺からはこれを」
マルセルは土間に嵌め込まれた板を外した。中から素焼きの壺を取り出す。
カップを二つ並べ、壺の中身を注いだ。
「マルセル、それワイン? いいのか? 酒を隠し持ってると……ネクロザール王の役人に捕まるって……」
「ああ、だからリュシアンさんがコッソリとみんなに分けてくれたんだ……本当にいい人だよなあ」
若い鍛冶屋は寂しげに微笑み、カップをカリマに渡した。
「じゃ、姉ちゃんの結婚を祝って」
「かんぱーい!」
素焼きのカップがゴツンと鈍い音を立てる。
二人は、一杯のワインを舐めるように味わった。いつの間にか肩を寄せ合い眠りに落ちた。
一番鶏の鳴き声で目が覚めた途端、顔を見合わせ笑い転げた。
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