6 幸せな村

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「みえみえだよマルセル。姉ちゃんと話すときだけ、声がうわずって顔赤くして俯いてさ」  カリマが、頬を膨らませている。生まれたときから知っている小柄な少女。  男のなりを好む勇ましい少女が、男の恋心を見抜くとは。いくら見た目が男でも、女らしい心があるのだなと、マルセルは、恥ずかしく思うとともに感心する。 「シャルロットさんとリュシアンさんは、お似合いだからな」  カリマは腰にぶら下げた皮袋から、葉っぱの包みを取り出し、土間に広げた。  拳大の茶色い塊が現れた。 「これ鹿の干し肉。リュシアンさんから、狩りの褒美にもらっちゃった」 「カリマ! そんな貴重な肉、もったいないだろ!」 「可哀想なマルセルに、あげるよ」 「ははは。お前、いいやつだな」  カリマを子供と思っていたが、いつの間にか人を気遣える娘に成長したようだ。  小さな幼馴染の優しさがありがたく、マルセルは、カリマの赤毛をクシャクシャにかき回す。 「それなら、俺からはこれを」  マルセルは土間に嵌め込まれた板を外した。中から素焼きの壺を取り出す。  カップを二つ並べ、壺の中身を注いだ。 「マルセル、それワイン? いいのか? 酒を隠し持ってると……ネクロザール王の役人に捕まるって……」 「ああ、だからリュシアンさんがコッソリとみんなに分けてくれたんだ……本当にいい人だよなあ」  若い鍛冶屋は寂しげに微笑み、カップをカリマに渡した。 「じゃ、姉ちゃんの結婚を祝って」 「かんぱーい!」  素焼きのカップがゴツンと鈍い音を立てる。  二人は、一杯のワインを舐めるように味わった。いつの間にか肩を寄せ合い眠りに落ちた。  一番鶏の鳴き声で目が覚めた途端、顔を見合わせ笑い転げた。
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