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シャルロットがリュシアンに嫁いで、一年が経った。
マルセルは村長の館に、自分が作った鍬を届けにあがった。
「マルセルはラサ一番の鍛冶屋だな。お前の鍬は丈夫で長持ちする。しかも刃先が鋭いから、非力な女でも土を耕せる」
「そうよ。マルセルは鍛冶だけじゃないの。織り機も直せるのよ」
村長夫妻はいつも笑顔でマルセルを迎えてくれた。
リュシアンは、毛織のチュニックを被っている。マルセルには、織り込まれたワシの絵柄に見覚えがあった。
シャルロットが結婚する前、彼女の織り機で見かけた柄だ。
(そうか。シャルロットさんは、リュシアンさんのために織っていたのか)
若き村長は微笑みを絶やさない。
「マルセル。そろそろ嫁を貰ったらどうだ? うちの館によく働く娘がいるんだ」
「ええ、あなたはお父さんになってもおかしくない年よ」
シャルロットは大きく膨らんだ腹を撫でた。
「あ、俺みたいな男じゃ、女に悪いんで」
若者は紺色の帽子を被って背を向けた。うしろから「待ってよ、マルセル」と女が呼びかけるが、彼は足早に村長の館を出る。
と、矢筒を背負った娘に出くわした。
「あれ、マルセルじゃん」
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