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「よお、カリマか。また狩りに出かけるのか?」
「うん。ウサギを獲って、姉ちゃんにあげるんだ」
マルセルは声を潜めた。
「いいのか? 勝手に森で狩りをして、ネクロザール王の役人に見つかったらまずいぞ」
「あたしはそんなヘマしないさ。姉ちゃんに丈夫な赤ちゃんを産んでほしくてさ……今年は不作だろ? 姉ちゃん、村長夫人が贅沢するわけにいかないって、ロクに食べてないんだ」
「お前、いいやつだな」
鍛冶屋は女狩人の頭を撫でる。しかしカリマは幼馴染の手を振り払い、顔を上げた。
「……マルセル、ずっとその帽子……姉ちゃんが編んだ帽子、被ってるんだ」
若者は慌てて帽子をこすった。
「あ、まあな。俺のボサボサ頭を隠すのに、ちょうどいい」
「……まだ姉ちゃんのこと……いいや、行ってくる」
「役人に見つからないようにな」
少女カリマは振り返ることなく、左腕を挙げた。
ラテーヌ地方の辺境ラサの村。
村人それぞれの心模様もふくめて、ささやかではあるが幸せのうちにあった。
だがこの幸せは、一瞬にして打ち砕かれた。
ネクロザールが派遣した役人によって。
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