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「うぐおおおおお! シャルローーーーーーット!!」
村人の前で一度も怒りを見せなかったリュシアンは、目を吊り上げる。ズボンの裾に忍ばせていた短剣を取り出した。
「よくもよくも俺の妻と子供を!!」
無謀にもリュシアンは、マントの男に切りかかる。
が、彼も、傍にいた兵士たちの槍の餌食となった。
使用人たちは泣き叫び、主人と同じように抵抗を試みるが、兵士の槍に敵う者はいない。
マルセルは、血の饗宴を目の当たりにして、ガクガクと震えた。
(嘘だ嘘だ! シャルロットさんが! リュシアンさんが!)
口元を抑え、叫びたい衝動を必死に堪えた。
平和な村長の館が、血の匂いで満たされる。
呆気なく消えゆく命の群れ。
(嫌だ! 俺は死にたくない!)
彼の意識はただ、凄惨な舞台からの逃走に注がれた。そろそろと足音を立てないようにして蔵から出た。ゆっくりと館の敷地を後退りする。
酷い劇は視界から消え、金属音は小さくなった。
彼は走り出した。
マルセルは、家という家を訪ね回り、この惨劇を伝え外に出るなと忠告する。村長の館に駆けつけようとする者には、強く警告した。
ここにきて彼は、幼馴染の少女を思い出す。
カリマは、臨月を迎えた姉のためウサギを獲ってくると、出かけたのだ。
「カリマが危ない!」
マルセルは森に向かった。
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