7 暗転

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 鎧の兵士が取り囲み、次々と薪を焚べる。   「マルセル、離せ!」  少女は若者の腕の中でもがき、振り返る。  姉夫婦の無惨な姿に「ひっ!」と息を呑み、言葉を失った。  二人をこの場に連れてきた男たちが、顔を向けた。 「お前たちが我らに尽くす心があるなら、私の言葉に続け」  役人は、燃え広がる炎を見つめ、重々しく言葉を発する。 「罪人よ。地獄の業火に焼かれるがよい」  男は鍛冶屋と狩人に向き直った。  マルセルは、焼かれるリュシアンとシャルロットを見つめる。  彼らにどんな罪があった? ネクロザール王の厳しい徴税に耐え、村人に尽くしてきた彼らが、どこまでも清らかな二人が、なぜこんな理不尽な目に遭わなければならない?  ……わかっている。今、考えるべきは生き残ること。  鍛冶屋は表情を変えることなく、「つ、ツミビトヨ。ジゴクノゴウカニヤカレルガヨイ」と男に倣った。その意味を考えてはならない、と言い聞かせて。  マルセルは「お前も役人さんの言うとおりにするんだ」と、カリマを促す。  それがこの娘にどれほど酷なことかわかっているのに。  カリマは唇をキッと結び、役人を睨みつける。 「女! この者たちは、陛下の温情に叛逆したのだぞ!」  マルセルは、カリマを責め立てた。 「カリマ! お役人さんのいうことを聞くんだ!」  ついに狩人は涙を堪え「ツミビトヨ……」と抑揚なく唱えた。  王の役人たちは満足げに頷き、声を張り上げた。 「ネクロザール陛下の御代に、栄えあれ」  すると、炎を囲む兵士が「陛下に栄えあれ!」と続く。  マルセルは「ヘイカニサカエアレ」と謳う。  役人に睨まれたカリマもマルセルに倣って「サカエアレ」と呟く。 「声が小さい!」  役人の叱責を受けてマルセルは「陛下に栄えあれ!」と叫ぶ。カリマも小声で続ける。  マルセルの声は、次第に大きくなる。  いつしか、館の庭に他の村人が集まってきた。  村人たちは、村に愛を注いだ夫妻が焼かれる臭いと煙に包み込まれ、ネクロザールの栄光をいつまでも讃え続けた。  ラテーヌの辺境ラサの村は、ネクロザールの直轄地となった。  王が派遣した部隊が、そのまま館を占拠し居座った。  マルセルは、彼らに捧げる剣を何本も鍛えた。カリマは彼らの腹を満たすために、鹿を仕留めることとなった。
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