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鎧の兵士が取り囲み、次々と薪を焚べる。
「マルセル、離せ!」
少女は若者の腕の中でもがき、振り返る。
姉夫婦の無惨な姿に「ひっ!」と息を呑み、言葉を失った。
二人をこの場に連れてきた男たちが、顔を向けた。
「お前たちが我らに尽くす心があるなら、私の言葉に続け」
役人は、燃え広がる炎を見つめ、重々しく言葉を発する。
「罪人よ。地獄の業火に焼かれるがよい」
男は鍛冶屋と狩人に向き直った。
マルセルは、焼かれるリュシアンとシャルロットを見つめる。
彼らにどんな罪があった? ネクロザール王の厳しい徴税に耐え、村人に尽くしてきた彼らが、どこまでも清らかな二人が、なぜこんな理不尽な目に遭わなければならない?
……わかっている。今、考えるべきは生き残ること。
鍛冶屋は表情を変えることなく、「つ、ツミビトヨ。ジゴクノゴウカニヤカレルガヨイ」と男に倣った。その意味を考えてはならない、と言い聞かせて。
マルセルは「お前も役人さんの言うとおりにするんだ」と、カリマを促す。
それがこの娘にどれほど酷なことかわかっているのに。
カリマは唇をキッと結び、役人を睨みつける。
「女! この者たちは、陛下の温情に叛逆したのだぞ!」
マルセルは、カリマを責め立てた。
「カリマ! お役人さんのいうことを聞くんだ!」
ついに狩人は涙を堪え「ツミビトヨ……」と抑揚なく唱えた。
王の役人たちは満足げに頷き、声を張り上げた。
「ネクロザール陛下の御代に、栄えあれ」
すると、炎を囲む兵士が「陛下に栄えあれ!」と続く。
マルセルは「ヘイカニサカエアレ」と謳う。
役人に睨まれたカリマもマルセルに倣って「サカエアレ」と呟く。
「声が小さい!」
役人の叱責を受けてマルセルは「陛下に栄えあれ!」と叫ぶ。カリマも小声で続ける。
マルセルの声は、次第に大きくなる。
いつしか、館の庭に他の村人が集まってきた。
村人たちは、村に愛を注いだ夫妻が焼かれる臭いと煙に包み込まれ、ネクロザールの栄光をいつまでも讃え続けた。
ラテーヌの辺境ラサの村は、ネクロザールの直轄地となった。
王が派遣した部隊が、そのまま館を占拠し居座った。
マルセルは、彼らに捧げる剣を何本も鍛えた。カリマは彼らの腹を満たすために、鹿を仕留めることとなった。
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