8 村を売った男

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8 村を売った男

 ラサの村が暗闇に覆われて一年が経った。 「へえ、鍬に鏃、剣も持ってまいりやした」  マルセルは、荷車に鍛えた武器と農具を積み、かつてリュシアンが住んでいた館に入っていった。  一年前までは、土壁の覆われた素朴な館だったが、今や石を組み上げた要塞と化していた。 「そこに置け」  革の胸当てを着けた男が、顎で蔵を指す。蔵も石に変わってしまった。  若き鍛冶屋は笑みを絶やさず「へえ、では、あらためてくださいまし」と手を擦る。  ネクロザール王の役人は、荷車から剣を取り出しじっと見つめた。 「ふむ。よかろう。では、十日後に、長剣をニ十本」 「げっ! それは……えー、俺だけでなく仲間にも聞かないと……」 「陛下に逆らうのか?」 「い、いえ。やらせていただきます」  鉱石はもうない。材料の調達も含め、人をかき集めて不眠不休で作業すればどうにかなるか……鍛治仲間に頭を下げるしかない。 「それと、だ。今度のトゥール村の討伐に、カリマを同行させたい。お前が命ずれば、あの女も動くだろう」 (冗談じゃない!)  マルセルは叫びそうになった。 「い、いやー、あいつは狩の腕はともかく、人を殺ったことはないから、役に立ちませんって」 「陛下に逆らうものは、獣と同じだ」 「しかし、あいつ中々の別嬪になりましたからね。男どもの中に綺麗な女が入ると、ロクなことになりませんって。ほら、そんな言い伝えあるでしょ?」  マルセルは、美貌の女狩人を巡って男たちが戦った民話を持ち出した。  役人はマルセルをじっと見つめた。 「……お前はカリマの弓の腕に変わるものを、差し出せるか?」 「討伐用に、剣のほか、槍と弓矢を作って差し上げますよ」 「期限は変えないぞ」  鍛冶屋は笑顔で「このマルセルに任せてください」と大きく頷いた。
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