8 村を売った男

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 夜、マルセルは鍛冶場をそっと抜け出し、丘に向かった。  茂みに覆われた斜面に、大人が身を屈んでやっと入れるほどの穴が穿たれている。かなり近づかないと、この穴は見えない。  マルセルはしゃがみ込み穴に入った。少し進むと開けた場所に出る。若者はゆっくり立ち上がり、そろそろと進む。  ラサ村生まれの者はみな、子供のときこの洞窟を遊び場にしていた。  奥に進むと、よく知る娘の声が聞こえてきた。 「なにが聖王だ! 姉ちゃんを殺しやがって!」  あたりを小さなランタンが照らしている。  カリマを含めてラサ村の人々が十人ほど、しゃがみ込んでいた。他の村人も、次々にネクロザールへの怒りを口にする。  子供たちの遊び場だったこの洞窟は、今や村人の溜まり場と化していた。人々は時折この洞窟に集い、統一王の圧政への不満をこぼし、いつまでも明けぬ夜を嘆いていた。  が、マルセルはこの場に加わったことはない。  侵入者に気づくことなく話し込む人々に、マルセルはボソッと忠告する。 「お前ら、声でかいぞ」  パッとカリマが身を翻した。 「マ、マルセル……あんたも、こっちに入るか?」  躊躇いがちに娘が尋ねる。 「そんなわけねえだろ」  暗がりで村人の冷たい視線を浴びつつ、マルセルはボソッと呟く。 「軍が、トゥール村を攻めるってさ。ここは通り道になる。しばらくこの洞窟には近づくな」  村人が「なんだと!」「なあ、トゥール村に知らせてやらないと」と騒ぎ出した。 「やめとけ。アイツらは足が速い。お前らがトゥール村で戦の巻き添えになり殺されるだけだ。じゃあな」  若い鍛冶屋は背を向けた。 「マルセル」  カリマが呼び止めた。鍛冶屋は足を止めるが振り返らない。 「姉ちゃんの帽子、やめたんだ」
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