1 その後の王太子の婚約者

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「メアリ様。この日も殿下は、王立大学に通われるのですね」 「はい。殿下は今、医学にご関心を寄せていらして、執務室で論文に目を通されています」  ロバートが医学を熱心に学ぶようになったのも、クマダ博士の事件がきっかけだろう、とメアリは思っている。 「メアリ様、それではこの案で、先方に調整を図りましょう」 「お願いいたします、侍従長。ところで本日は、殿下の視察に同行されなくてよろしかったのでしょうか?」  老人はカラカラと笑った。 「今日は、『タミュリス販売』の式典ですから問題ないかと。社長は、殿下に好意的ですから」 「国王陛下の演説を『タミュリス』に記録して、国中に陛下の肉声を届ける……これもロバート殿下が科学技術に関心を持たれているから、成しえたことですね」 「爺も年ですから、そろそろ引退したいところです。メアリ様のお陰で助かっております」  王太子の婚約者は、緑色の眼を輝かせた。 「侍従長は殿下にとって、なくてはならない方。どうか、いつまでも殿下をお支えください」 「プリンセスに命ぜられては、仕方ありませんのう」  途端にメアリは、頬を膨らませた。 「侍従長! 私はプリンセスではございません!」  老人は微笑みでもって、メアリの抗議をかわした。  彼女が何度も自分はプリンセスではないと主張しても、セバスチャンは受け付けてくれない。 「そ、それより殿下がそろそろお戻りでしょう。私は殿下の執務室を整えて参ります」 「いや、それには及びませんよ……ほら」  メアリが侍従長執務室のドアノブに手をかけた途端、ドアの向こうから甲高い男の声で呼びかけられた。 「メアリ、ここにいるのだろ?」
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