1 その後の王太子の婚約者

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「え! 殿下。もうお戻りで?」  ドアが開け放たれた。黄金の髪を輝かせる美青年が、笑っていた。  空のようなロバートの眼が、メアリの胸を高鳴らせる。 「すみません殿下! お出迎えもせず」  メアリは恐縮して頭を下げる。太子宮の主の帰りに合わせ、ロビーに出迎えるべきところなのに。  ドアの向こうの廊下を覗くと、若い侍従がロバートのコートと荷物を運びこちらへ走ってくる。  使いがロバートの帰還をセバスチャンに知らせる前に、王子は侍従長の執務室に駆けこんだようだ。 「殿下、式典はもうお済みでしたか?」  ロバートは『タミュリス』の社長と話し込み、その後王立大学の医学カレッジに立ち寄るから、彼の戻りが遅くなるだろうとメアリは予想していた。 「それは」  ロバートはメアリの肩を抱き寄せた。 「君が今日、この宮に泊まるから早く引き上げたんだ」  耳朶をくすぐる囁きが、メアリの肩を硬直させる。 「で、殿下。侍従長の前です!」  ロバートを幼い頃から見守ってきた老人は、笑った。 「いやいや、年寄りには目の毒ですな」  メアリは頬を染め、ロバートの腕を振り払った。 「殿下、そ、それより、来週の視察スケジュールですが、侍従長に調整をお願いしました」 「ありがとうメアリ。そうだ。『タミュリス』の社長に、次は工場を見学したいと伝えた。いつでも構わない」 「殿下、工場ですか? 研究所ではなくて?」  メアリは首を傾げる。王子の興味は製品の原理や開発工程にあり、裏方の現場には関心が薄いようであった。  ロバートは、婚約者の巻き毛に指を絡ませる。 「いくら優れた製品でも、労働者を酷使して作らせていたら問題だろう?」 「あ、殿下は、『タミュリス』の工員たちが適正な環境で働いているか、視察されたいと?」
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