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凪子さんが言った最後の言葉がおかしくて、思わずクスリと笑いが漏れた。
「それ、ガセだ。俺は枕営業はやってない。そんなのしなくても客はついてる」
よくあるガセネタを信じて俺に説教しようとやって来たわけか。
女を色仕掛けで騙してカネを吸い上げてると?
たしかにカネを使わせていることに変わりはないのかもしれないが。
「じゃあ、ヤクザの女に手を出してるっていう噂もガセなの?」
「なにそれ」
「ほんとに身に覚えがない?」
一瞬、なぜそんな噂が? と溜め息を吐きたくなったけれど、俺の太客の中にひとりだけ、思い当たる客がいた。
いつも羽振りがよく、ケタ違いのカネを店に落とすのだ。
俺に対しても、まるで恋人かのごとくベタベタと接してくる。
俺は仕事だから、店の中でただ疑似恋愛をしているだけだが……よく考えたら彼女の素性は不明だった。
まさかあの客がヤクザの女だったのか? たしかにありうる話だ。
あんなに若い女が、羽振りよくホストクラブで遊べているほうが不思議なのだから。
「アンタ、ホストを辞めなさい」
堂々巡りのように、再び凪子さんがそのセリフを口にする。
「ヤクザの女かもしれない客はいるけど、手は出してないよ」
「事実はどうでもいいの。とにかく今すぐ辞めなさい」
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