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「相手はね、出会いを求めて来てるのよ? 気に入った男がいたら早いもの勝ち!」
「そ、そんな……スーパーの特売みたいに」
「葉月、アンタはかわいいんだから、恋愛に消極的なんてもったいないわ」
……かわいくなんてない。それは自分が一番よく知っている。
香坂葉月、 二十八歳。
かわいい要素など微塵もない残念なアラサーで、幸せなカップルの誕生をお手伝いする会社に勤めておきながら、恋愛や結婚に一番縁遠いのは地味で彼氏なしの自分自身なのだ。
今年の誕生日が来たら二十九歳になり、来年は三十代を迎えるというのに、自分が結婚どころか恋愛する姿を想像できない。
とはいえ、私自身が恋愛に消極的なことも一因している。
特に取り柄のない私を相手に、真面目に恋愛してくれる奇特な人などいないだろう。
そんな現状の中、本気の恋愛の仕方すらわからなくなっている。
大学を卒業後、私は今とは違う会社で働いていた。
自動車部品を製造する小さな会社で、経理事務をしていたのだ。
昔ながらの事務服を着て、数字ばかりを追いかけている日々で、その会社の経理部は他の部署と違って同僚たちとの交流があまりなかった。
そうなると必然的にトラブルもなく、社内での人間関係は良好だった。
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