§1.人たらしと元ホスト

4/17
前へ
/138ページ
次へ
 ある意味働きやすく、居心地も悪くなかったのだけれど……  ――― 人生、このままでいいんだろうか。  突然ふと、そんな考えが浮かんでしまった。  自分自身は恋愛とは無縁だが、人の幸せを見聞きするのは嫌いではない。むしろ好きだ。  数少ない女子の同僚の楽しげな恋バナを耳にすると、まるで自分が恋愛しているかのような錯覚に陥って、素直に心から祝福していた。  自分の話ではなくとも、それだけで満足だった。  そんなときに偶然知り合ったのが、杜村社長だ。  彼女と私は、同じカルチャースクールに通い、カラーセラピーの講座を通じて出会った。  カラーセラピーは、私は単なる興味の範ちゅうだったけれど、社長は仕事に役立てたいと思って学んでいたらしい。  私たちは仲良くなるにつれ、どんどん会話が弾んで一緒に飲みに行くようにもなった。  そしてこの会社、スターシェードで働かないかと声をかけてもらったのだ。  社長は私と十歳以上年齢が離れているというのに、なぜか話も感覚も合う。  本当は地味で面白みがないくせに、それを取り繕ろうかのように表面上は愛想よく振る舞う私と、自由奔放で心底明るく、お喋りな彼女とでは、その性格は正反対。  どうしてウマが合うのかわからないけれど、結局のところ私は彼女に憧れを抱いたのだと思う。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

362人が本棚に入れています
本棚に追加