§1.人たらしと元ホスト

5/17
前へ
/138ページ
次へ
 生き方を含め、こんなふうになれたら素敵だなと、私に無いものを持っている彼女をすごいと思ったし尊敬できた。  彼女のようになれるわけがないのは、わかっている。  地味な私が、いくら彼女の真似をして背伸びをしても無理だ。周りは引くだけだろう。  だけど彼女と一緒に働きたいと思った。  カップルの運命の出会いに立ち会う仕事を一緒にやりたい、と。  そんな理由で、特に思い入れがなかった前の会社を辞めて、この小さな会社に転職した。  ……杜村 凪子。  豊臣秀吉も真っ青なくらいの、人タラシだ。 「葉月、もう少し服の色を明るめにしなさいよ」  社長は腕組みをし、椅子に座る私の服装チェックを始めた。  今日の私の服装は、白のシャツに薄いグレーのタイトスカートと、ヒールが低めの黒パンプスだ。  たしかに地味ではあるけれど、それはいつものことなのに。 「社長がスカートで来いって言うから、それを守ってるのに……。今度は色ですか?」  あっけらかんと軽い調子で返事をしたが、社長の顔色は変わらない。  スタッフが全部で十五人ほどしかいないうちの会社には、制服というものがない。  それならばスーツが妥当だろうと勝手に判断して、以前はパンツスーツばかり着て来ていた。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

362人が本棚に入れています
本棚に追加