§1.人たらしと元ホスト

6/17
前へ
/138ページ
次へ
 黒や紺など、微妙にバリエーションを変えてはいるけれど、必然的にいつも似たような服装になってしまう。  社長はそこに目をつけて『葉月、明日からパンツは禁止ね』といきなり改善命令が出たのだ。 「明るいピンクのフレアスカートがいいんじゃない? かわいいわよ。葉月に絶対似合う!」 「無理です」  それが似合うのは、見た目がかわいい女子だけなのはよく知っている。 「それにさ、もっとこう……ヒール高めの靴にしよう!」 「そんなの履いたら歩きにくいし、派手にコケるのが関の山です」  この年になってまで街中で転び、膝を強打して血だらけになりたくない。履きやすい靴が一番だ。 「コケないように歩く練習をすればいいじゃないの」 「練習って……」 「良い男をゲットするためよ!」  ウフフ、なんて艶っぽい唇で言われたら、女の私でもドキドキしてきそうだ。やはり社長は色気があって美しい。 「良い男って、なんの話? もしかして俺のこと?」  気がつくと社長の後ろに人影があり、私たちの会話にすんなりと合流した。  滝沢(たきざわ)(かける)、二十七歳。  半年くらい前に社長が突然社員にした男性だ。  コネ入社なのは私も同じだけれど、うちの社長は急に人を雇い入れるのが好きみたい。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

363人が本棚に入れています
本棚に追加