§1.人たらしと元ホスト

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 社長が突っかかったところで、架くんの顔がようやく離れていく。  もう、やめて欲しい。男性への免疫がない私は、たったこれだけのことでかなり動揺してしまうのだから。 「まさか。凪子さんも素で十分綺麗だよ」  女性を褒めることに関しては、架くんには天性の才能がある。  どこまで本気で言っているのかわからないけれど、お世辞も含め、女性をよろこばせるのが非常に上手だ。 「でもさ、葉月はもっとマスカラとかしてみたらどうかな? 目元がパチッとなってお人形さんみたいになるわよ?」 「なりませんよ。私、ブサイクですから」  私の顔はアイラインを引いても地味なままなのはわかっている。  だが、マスカラやマツエクなどを施したところで、どこまで変わるのかと冷めている自分がいるのだ。 「葉月さんのどこがブサイクなの?」  架くんが再び私の顔を覗き込む。その整った顔は、私にとってすでに凶器だ。私は固まってしまって身動きができなくなった。 「自己評価低いなぁ。かわいいのに」  架くんのそんな何気ない行動に、私の顔の温度が面白いくらいにまた上昇していく。  彼は本気で言っていないとわかってるのに、私はバカだ。なぜいちいち反応してしまうのだろう。
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