陽夏

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陽夏

 坂下陽夏(ひなつ)。  猛暑の夏、気まぐれのように風が涼しい日に産まれた娘に、私と夫はそう名付けた。柔らかい赤ちゃんを抱っこしながら窓の外に見た眩しい太陽と揺れる向日葵。差し込む光が明るくて暖かくて、時折頬を撫でる風が心地よくて、『幸せってこんな時間のことをいうんだね』と呟いた。すると夫が少し驚いた顔をしながら、『僕も同じことを考えていたよ』と言ったから、私たちふたりは顔を見合わせてくすりと笑った。  その時の幸せを、太陽の光を、向日葵の匂いを、風の柔らかさを留めておきたくて、名前の中にそれらを込めた。いつの日か、成長した赤ちゃんも同じ幸せを感じるようにと願いながら。
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