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甘えん坊
陽夏は少し小柄ながら活発な女の子に育っていった。
はいはいができるようになると、私の後ろを必死で追いかけてきた。歩けるようになると、地面の感触が新鮮なのかゆっくりと噛み締めるように一歩ずつ進んだ。小学校に入学する少し前に自転車に乗る練習を始めると、何度も転んでは泣きながらまたペダルに足を乗せ、一週間ほどでスイスイと進めるようになった。
そんなふうに少しずつ自分の世界を広げていったけれど、根っこのところでは陽夏はまだまだ甘えん坊な娘だった。
『ママ。幼稚園でママとパパの絵描いたの。見て見て』
『ママー、お菓子買ってぇ』
『ねぇ、ママ。今日ね、学校でね』
そんな甘えん坊の陽夏も可愛らしくてたまらなかったけれど、一人で進めるようになるのを頼もしく思いながら見ているのも好きだった。これから成長していくのが楽しみで仕方がなかった。夫とふたりで、陽夏の未来を想像しながら『でも少し寂しいね』なんて笑い合う時間がたまらなく幸せだった。
だけどそんな時間は、陽夏がいなくなったあの夏の日に止まった。
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