電話

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「行ってきまーす」 「行ってらっしゃい。車に気をつけてね」  それは残暑の和らいだ九月も終盤のある日。陽夏は授業で運動会のリレーの練習をするのだと、いつもより張り切って家を出ていった。声をかけてもこっちを見ずに行ってしまう様子に苦笑しつつ、来週末の運動会が楽しみだと思う。  昨日の晩も、『絶対一番になるからね』なんて話していた。かと思えば『お弁当は唐揚げとね、たまご焼きも入れてほしいな』なんて甘えた声を出す。だから私も、陽夏の好きな海老フライやツナのおにぎりをたくさん作ろうと早くもわくわくする心地でいた。  だけどその日のお昼過ぎ、自宅の電話が鳴った。 「二年の坂下陽夏さんのお母様ですか? 陽夏さんが怪我をしたのですぐに病院へ行ってください」  ……陽夏が怪我? 何があったの? 大丈夫? きっと、ちょっと転んだだけよね?  一体どうしたのか、陽夏は大丈夫なのかと問い詰めても、電話の相手は『とにかく早く病院に行ってくれ』の一点張りだった。そのことがより事の重大さを物語っている気がしてならなかった。必死で自分に『大丈夫』と言い聞かせようとしてもできなかった。それよりももっと大きな声が、祈るように『陽夏』と叫んでいた。  電話が切れ、真っ白になる頭と震える手で何とか夫に連絡をすると、すぐに病院に向かうと言う。力強い夫の声にほんの少しだけ落ち着きを取り戻して、私もまたタクシーで病院へ向かった。
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