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 あの後のことはほとんど記憶にない。陽夏の名前を呼び続けていたような気もするし、何も言えずにいたような気もする。陽夏のお葬式の日も、周りの人たちがまるで早送りのように動く中でぼんやりと座っていることしかできなかった。たくさんの人が来てくれて声もかけてくれたそうだけれど、何ひとつ覚えていない。  ただ最後に棺の中に見た真っ白な顔と灰の上に横たわる小さな白い骨だけが、鮮明に記憶に残っていた。  あの日、陽夏はリレーの練習に張り切って運動場へ向かい、階段を降りようとしたときに足を滑らせたそうだ。打ちどころが悪く、そのまま意識を取り戻すことなく命を落としてしまった。その話を聞いたとき、私も夫も、何かできることはなかったのかと泣いて後悔した。階段は走らないように、急いでいてもちゃんと歩くようにと教えられなかった、そのせいで陽夏は死んでしまったと、ふたりで陽夏に謝った。誰にぶつけようもない憤りをふたりとも抱えては、ただ泣くしかできなかった。
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