2/3
前へ
/19ページ
次へ
 リョウコの意識はもう戻らないかもしれない、と遠くに暮らす彼女の両親に電話した。  そしたら、そういうことならぜひ人本化して欲しい、と言われてしまった。  リョウコから両親は人本肯定派と聞いていたが、こんなにすぐお願いされると、面食った。  そしてカスミはふと思った。 ――本人の希望を聞かずに、人本化できるのだろうか?  カスミが今まで仕事で担当した人本化の案件は、全て本人の同意がされたものだった。  人本化は原則として本人の同意を得ないと実施できないからだ。  こんなパターンは、なかった。  それに、もし人本化したら姿。 一度人本化したら、朽ちないかぎり、ずっと本のままなのだ。本になった人間を元に戻す技術は、未だ確立されていない。  そして、カスミが一番恐れていることがあった。 ――もしリョウコが人本化されたら、ご両親はさらに精神を病んでしまうのではないか?  リョウコは、兄の人本に依存する両親を、毎日のように心配していた。  もし、自分が兄と同じように依存対象になってしまったら、リョウコは悔やんでも悔やみきれないに違いない。  そして、何よりカスミは――諦めたくなかった、リョウコのことを。 彼女の心臓はまだ動いている。奇跡が起これば、再び目覚めるかもしれない!
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加