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一
ザァザァと、重たい雨が降っている。
渡辺カスミは、ある依頼者の対応をしていた。その依頼者――おばあさんは、目に涙を浮かべ、本を受け取った。
「――これが、あの人かい?」
「はい。そうです」
おばあさんは、一瞬言葉を失った。
それから、愛おしそうに本の表紙を撫でる彼女に、カスミはどう声を掛けたらいいか分からなかった。
「……これで、ずっと一緒にいられるね。私が子供のころから集めた本のように」
おばあさんの顔に、いつのまにか笑顔が戻っていた。
「さぁ、家に帰りましょうかね」
「……人本サービスをご利用いただき、ありがとうございました」
カスミは頭を下げる。
おばあさんもぺこりと頭を下げ、近くのバス停へと歩いて行った――。
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