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 報告書を書き終えると午後の七時で、事務所の外は真っ暗だった。  カスミは家に帰り、玄関の靴を見た。シェアハウスしている友だちが、まだ帰って来ていない。 「今日も残業かな……?」  リビングで軽い夕食を済ませると、階段を上り二階の自室へ向かった。  カスミの部屋は、本でいっぱいだった。壁一面がアンティーク調の本棚になっていて、彼女がいままで収集した古書がずらりと並んでいる。  カスミは部屋の中央に置いてある鍵付きの本箱に近寄り、ある本を――母の人本を取り出し、椅子に座って読み始めた。  「おかえり」を聞けない代わりに、人本を読む。母がまるで目の前にいるようだ、とカスミは錯覚した。  本箱には、彼女の祖父母、両親の人本が合わせて四冊保管されている。これらは、カスミが初めて集めた本だった。  夢中になって読んでいたカスミは、部屋に入ってきた人物に気がつかなかった。 「まーた、そんな本読んで! 読みすぎは身体に毒だよ?」 「……おかえり、リョウコ」  カスミの同居人、リョウコが家に帰ってきた。  
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