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 リョウコはカスミと違い、人本に否定的な人物だ。  なぜかというと、リョウコの家族が人本から離れられなくなってしまったからだ。  リョウコの兄は、彼女が子供のころ不治の病にかかり、人本になった。  最初のうちは両親と一緒にリョウコも兄の本を読んでいたが、その本に依存し始めた両親を見て、我に返ったのだという。  人本は、生きている人に対する毒。  リョウコは常にそう考えている。  カスミは「そんなことはないよ」と否定しつつも、人本を読了後の自分の顔を鏡で見たとき、ゾクリとしたことが多々あったので完全否定はできなかった。  リョウコだけではなく、少数派ではあるが、人本否定派はたしかに存在する。人本が読み手の精神を病ませることが、社会問題となっているのだ。  ただ、精神が病んでいるかどうかの解釈は人それぞれであり、それ故に人本否定派は少数であった。  しかし最近では、人本反対派によるデモは毎月国会前で開催されており、学生運動も盛んになってきている。   「――カスミ、夜ご飯は食べた?」 「ちょっとだけ」 「もう! そんなんじゃ身長伸びないよ」 「そんな歳じゃないわよ」  二人は顔を見合わせて、同時に吹き出した。 「たしかに読み過ぎは良くないよね。リビングルームに行って、映画でも見ようか?」 「うん! それがいい」  カスミは人本を片付けると、リョウコとともに階下へ降りた。
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