さよならモビリティ

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 車として生まれたオレが、この世界でひとり残されたとして、何を為すことが出来るのか。  それから幾日も幾日も、朝が来て夜になることを繰り返すだけの時間を感じながら、ひたすらに思考を巡らせる。  目的をもって作られたとして、それを受け入れるべきか否かは別の問題であり、思考はその目的を超えることだって出来るだろうし、  ずっと疑問だった。  人間を安全に運ぶために生まれた人格。  あくまでもそれは超えられない自身の境遇ではあるが、かといって。  では、そこに意味をもたらすこと自体に必然性はない。  ポツポツとした粒の感触が感じられる。  雨の音がボディを滑らかに滑り落ちる。  オイルが、エンジンが、訴えかけてくる。    オレはもっともっと速く走ることが出来る。  スピードを上げて、上げて、ひたすらに上げて、その先にオレの欲するものが、まだ沈んだままの沼地から這い出すようなドロドロとした、しかし無垢で無機質な核があるのではないか。  
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