さよならモビリティ

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 だからとにかく走ることにした。  運転先にも助手席にも誰もいなくても、このボディは持て余さない。  スピードだけを生命に変えていく。  あれだけ多種多様なモビリティが行き交っていた陸も空も、今はオレだけのもの。  沢山の戻らない、戻せない時の上を、オレは走る。  スピードは700キロを超えて、オレのボディは空からさらにその上空へと向かう。  雲をすり抜けオゾン層へと到達する。  どこまで、どこまでオレの意識は正常な認識を保てるだろう。  自身の認知している事象が全てであって、俯瞰して異なる側面からいくら分析できたところで、それはすでに自身の認知ではないのだから、今感じていることを是とするしかない。  オレに出来ることはただ走ること。  設定されたスピードと目的地まで人間を運ぶこと。  スピードと目的地がない今のオレは無限大の可能性を秘めている、それだけのこと。  オレにしか出来ないスピードに挑むだけのこと。  
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