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彼はインドに住む家族と相談し、翌年、就労ビザが切れると同時に日本での永住権を得た。
それから数ヶ月後。
明日から僕達は。
「忘れ物はない?」
「ダイジョーブ!」
「パスポート持った?」
「もった!」
一週間の休みを貰い、一緒に彼の本当の故郷に帰る。日本を発つ前日の夜、僕は入念に持ち物を確認し、カマルと一緒に考えた自己紹介文を何度も読み返した。彼の両親には事前に同性のパートナーがいる事を伝え、TV電話などでも何度かやり取りをしている。
しかしその夜は不安と気持ちの昂りで、なかなか寝付けなかった。隣で寝息をたてる彼の腕を抜け出し、ベッドサイドにある窓からぼんやり外を眺める。
明るいと思ったら満月だった。
ぽってりと丸く輝いている月の色はターメリックのように黄色く、静かな力強さに満ちている。
「……ネムれないの?」
寝ていた筈のカマルが薄っすらと目を開いた。
小さく頷くと、彼は僕の手を引き再び腕の中に閉じ込める。
「ケント、ダイジョーブだよ。
ボクとケントはパートナーだ。「カゾク」なんだよ。だから、いっしょにいおう。「タダイマ」って」
「カマル………」
カマルとパートナーの今、自分もまた彼の家族の一員なのだ。
直ぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。
まだ見ぬ遠い故郷に想いを馳せながら、胸に寄せた耳から響く穏やかな心音に引き込まれ僕も静かに瞳を閉じた。
おわり
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