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 アパートを借り仕事まで見つけている。由里子の本気に、いよいよ壮一は動揺が隠しきれなくなり、まだ半分も吸っていない煙草を灰皿へと押し付けた。ジュッと火の消える音。水の入った灰皿に吸い殻が沈み色を濃くしていく。 「なにが不満なんだ? 大体、俺はもう六十でおまえだって五十半ばだろう。俺は明日には定年退職するんだぞ。それなのに離婚て」 「最近は熟年離婚も珍しくないですよ」 「だから、理由はなんだ? そんな今さら……」  壮一にとっては『突然のこと』で、離婚なんて『今さら』なのかもしれない。けれど、由里子にとっては決して突然でも今さらでもなかった。ずっとずっと考えていたのだ。 「理由は今あなたに口で言ってもわかりませんよ。明日、わたしが出ていって一週間くらいしたら、あなたも気付けるんじゃないかしら」  自分で気付けばいい。今まで自分がどれほど不快な『山』を築いてきたのかを──。
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