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 由里子が出ていって三日が過ぎた。連絡は一切ない。  シンクには三日前置きっ放しにした花束が萎れ、美しく顔を揃えていた花たちは一斉に項垂れている。リビングのテーブルにはコンビニ弁当の容器が小さな山を作り、寝室や風呂場には洗濯されていない衣類が散乱している。  由里子と結婚して以来、家事のほとんどをなにも手伝ってこなかった。掃除や洗濯が出来ないというわけではないが、今までやってこなかったことをやるのはひどく億劫で、壮一はそれらを見て見ぬ振りをした。どうせ、もうすぐ由里子が戻ってくる。それに退職後はゆっくり過ごすと決めていたのだ。壮一のなかにある『ゆっくり過ごす』というビジョンのなかに、家事は含まれていない。  昼すぎに起床し着替えもしないまま、壮一はリビングのソファへどかっと腰をおろすと煙草に火をつけた。大きなガラス製の灰皿には吸殻が半分ほど溜まっている。いつもなら。由里子がいたならば、なにも言わなくてもコーヒーが運ばれてくるところだが、生憎と由里子はいない。煙草を口に咥えたままキッチンへと向かい、コーヒーが入っているであろう棚を開いた。
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