3人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………」
空っぽだった。
急にサッと血の気が引いて、壮一は煙草をシンクに投げ入れると棚という棚を開いてみた。食器や調理器具はあっても、醤油や塩といった基本的な調味料はどこにもない。使いきって出ていったのか。あるいは、ぜんぶ処分して出ていったのか。どちらにしてもそれは由里子の本気をうかがわせるに充分だった。
腹がたつというよりは、虚無感のほうが大きかった。どうして。自分が一体なにをしたというのか。帰りが遅いことはあっても断じて浮気などしていないし、由里子に暴力をふるったこともない。どこにでもいるごくごく一般的な夫だったはずだ。それなのに、どうして。
どうせ戻ってくる。そう思っていた期待がガラガラと音をたてて崩れていく。由里子は戻ってこない。今さらながら、その事実を眼前に突き付けられたようで、壮一は力なくその場にへたりこんだ。
最初のコメントを投稿しよう!