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「…………」  空っぽだった。  急にサッと血の気が引いて、壮一は煙草をシンクに投げ入れると棚という棚を開いてみた。食器や調理器具はあっても、醤油や塩といった基本的な調味料はどこにもない。使いきって出ていったのか。あるいは、ぜんぶ処分して出ていったのか。どちらにしてもそれは由里子の本気をうかがわせるに充分だった。  腹がたつというよりは、虚無感のほうが大きかった。どうして。自分が一体なにをしたというのか。帰りが遅いことはあっても断じて浮気などしていないし、由里子に暴力をふるったこともない。どこにでもいるごくごく一般的な夫だったはずだ。それなのに、どうして。  どうせ戻ってくる。そう思っていた期待がガラガラと音をたてて崩れていく。由里子は戻ってこない。今さらながら、その事実を眼前に突き付けられたようで、壮一は力なくその場にへたりこんだ。
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