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十日が過ぎ、ようやく由里子が壮一のもとへ顔を見せた。仕事帰りなのか、今まで見たことのない格好をしている。ラフなスウェットの上下。髪をひとつに束ね、動きやすい格好をしている由里子は、この家を出ていく前よりも若々しく見えた。
「離婚届、出してくれましたか?」
「……あんなもの、とうに捨てたさ」
「そう言うだろうと思って、新しくもらってきました。わたしが出しておきますのでサインしてください」
そう言って由里子が真新しい離婚届を壮一に差し出してくる。
「…………理由はなんだ?」
出ていく前、由里子は一週間経てば気付くだろうと言っていたが、いまだ壮一はその理由に気付けずにいた。由里子が大きなため息をつく。そして、心底嫌なものを見るような目付きで、吸殻が山になった灰皿を指さした。
「これ。この灰皿ですよ」
「灰皿?」
「あなた、水を入れるじゃないですか。灰がねっとりと底にこびりついて、吸殻を片付けるのが本当に嫌だった」
鼻にシワを寄せ、この世で一番不快なものを見るような目で由里子が灰皿を見る。
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