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柚紀の目覚め
「……6は完璧だからね」
「なるほど…それで…次の数字は?」
「28だよ…さて、分かるかな?」
「6の次が28…それは…その先も、まだまだあるのかい?」
「まだまだあるが…4桁までの数字は、たった4つしかない」
「たった4つ?!…はぁ…さっぱり分からないな。降参だ。教えてくれ」
「すぐに降参する癖、なんとかした方がいいよ?答えは、完全数だ」
「…完全数?聞いた事もない言葉だ」
「なんと…聞いた事も…はぁ…それで、よくこの僕の助手なんて名乗っていられるね?いいかい?4桁までの完全数くらい覚えておいてくれ。たった4つなんだから。6、28、496、8128。これ位なら覚えられるだろ?」
「いや…そもそも完全数って何なんだい?」
「はぁ…そこからか…いいかい?完全数ってのは…」
「……ず」
ず?
「ゆず…ゆず…」
あ…誰かが、手握ってる
「ゆず…ゆず…」
この声…
「瑞…紀…?」
「ゆず!分かるか?」
「うん…瑞紀…助けに来てくれて、ありがとう」
「~~っ…ゆず…」
あの瑞紀が、泣きそう
相当心配かけた
「父さん…母さん…心配かけて、ごめん」
「ゆず~~!良かった…良かったよ~~!」
父さんが泣いた
「ゆず…よく頑張ったわね?」
「うん…」
母さんが、頭撫でてくれた
「失礼します…目覚めましたか?」
「あ、はい。たった今」
「先生呼んで来ますね?」
「お願いします」
看護師だった母さんは、こんな時、なんか頼もしく見える
助けに来てくれた時も…
「ゆず、すぐに救急車来るから大丈夫よ。ちょっと痛いけど、頑張ってね?」
あまり見ない様にしてたけど
俺の血塗れの足を、なんだか触ったり、押したり、テキパキ動いてた…と思う
「失礼します。柚紀君、目が覚めたんだね?」
「はい」
「今、痛い所は?」
「痛い所……右の太もも痛いです」
「だよね~?一応痛み止めの注射はしたんだけどね?ばい菌付かない様に、結構洗っちゃったからさ…痛み止めの飲み薬は出しとくけど、痛み止めの点滴もしてくかい?」
優しそうな先生
ちょっと足を動かしてみる
痛いけど…
「ちょっと、立ってみていいですか?」
「いいよ。ゆっくり起きようか」
「はい」
先生に手伝ってもらって、ゆっくり起き上がる
「大丈夫かな?クラクラしない?」
「はい」
「じゃあ、ゆっくり立ってみようか」
タオルケットを外されると
「……え?」
「ん?どうかしたかい?」
「お…俺の…服…」
病衣の、はだけてる裾を合わせる
「あ、血塗れだったからね…消毒液とかも付くし、病衣に着替えさせてもらったよ」
「し…下着…は?」
「下着もだよ?ちょっと着替えがないから、オムツにさせてもらったんだ」
衝撃的過ぎる
俺の知らない間に…
俺は…素っ裸にされてた
パンツまで脱がされてた!
一気に顔が熱くなる
「あら~…ゆずったら可愛いわね~?真っ赤になっちゃって」
「母さん、そういうのは、見て見ぬフリしてあげなよ」
「だって、だって、意識なくて救急車で運ばれて来たら、全部見られて当然よ~。そんな事で赤くなっちゃうなんて、可愛い過ぎるわ~…ゆず~」
「心優…益々赤くなっちゃうから…」
そりゃ、そうなのかもしれないけど
母さんは慣れてるのかもしれないけど
恥ずかしいものは、恥ずかしい!
「柚紀君?誰も、そういうの気にするスタッフ居ないから…」
「そうよ?ゆず。もうね、毎日沢山の人の裸見るから、ゆずのなんて、すぐ忘れられちゃうから大丈夫よ?」
「母さん…言い方…」
「そうそう、柚紀君。1人1人なんて、覚えてないから」
「そっ…ですか…」
ゆずのなんて…
喜ぶべきなのか、何なのか…
「さ、じゃあ立ち上がってみようか」
「はい」
なんとか立ち上がり、歩けそうとの事で
俺は、そのまま帰宅を許可された
母さんは、ちゃんと父さんに、俺の着替えを持って来るよう頼んでくれてたらしく
俺は、パンツとズボンに着替えて帰宅出来た
傷なんかより
オムツが屈辱的過ぎた
家に帰って、ソファーに座って、ほっと一息
「はぁ…死ぬかと思った」
「ゆず…シャレになってないから」
「ゆず、数日は熱も出るし、家で大人しくしてましょうね~」
「えっ?歩けるのに?」
「ゆず、母さんの言う事聞いて…と言うか…父さんはもう…ゆずを外に出したくない!」
あらあらと、母さんが父さんを慰める
「ゆず、今日は大変だから、明日改めて警察の人、話聞きに来るって言ってたし、少し休んでた方がいいよ」
「そうそう。見た目の割に、浅い傷で良かったわ~」
「浅いのか?そうか…でも、痛くて怖かったよな?ゆず~!」
「父さん…」
父さんが、俺のとこ来て、抱き付いた
「心配かけてごめんね?」
「びっくりしたよ~…誘拐中って…ゆず~」
誘拐中?
「さ、遅くなっちゃったけど、軽くご飯食べましょ」
母さんは、いつも通りだ
「う~…こんな時、父さんより母さんの方が、よっぽど心強いなぁ…ごめんな~?」
「母さん、颯爽と現れて格好良かったよ」
「瑞紀も、怖かったろ?父さん何にも出来なかったなぁ…」
「でも、1番凄いのはゆずだよ。あの交番で見た数字を覚えてたんだろ?それで、犯人の様子伺いながら、助けが来るまで時間稼ぎしてたんだろ?ほんと…母さんの血を引いてるよ」
「そうなのか?ゆず…よく誘拐、監禁されてる中で、そんな事考えられたなぁ…」
だって…
信じてたから
1度も疑わなかったから
「時間はかかっても、絶対瑞紀が気付くって思ってたから。瑞紀が気付いたら、もう大丈夫だって思ってたから」
「瑞紀もね~…凄かったのよ?まるで台詞が用意されてるかの様に、ペラペラと警察の人に、ある事ない事話してね~?そうじゃないと、すぐに警察の人来てくれなかったわ~」
「そうなのか?瑞紀…警察を…騙したのか…」
「とにかく警察動かさなきゃ始まらないからね。でも、来てくれたのが都筑さんだったのは、ラッキーだったよ」
母さんが作ってくれた夕食を食べて
「ゆず、お薬飲みましょうね?」
お風呂にも入れない俺は
すぐに寝ようとして
佐野!と、思い出し
『佐野、大丈夫?』
と、送ると、すぐに電話がかかってきて
「大丈夫か?!柚紀…怪我…」
「大丈夫。処置してもらって、家帰ってご飯食べたよ」
「そ…そっかぁ~…良かった…柚紀、気失ないかけてたし、怪我したって救急車来るし…俺だけ先に助けられたからっ…」
「佐野…巻き込んで…心配かけてごめんね?佐野は?体大丈夫?」
「俺は、全然大丈夫だ」
「そっか。良かった」
「あ…早く休んだ方がいいよな?明日は、学校休みか?家行ってもいいか?」
次々出てくる佐野の質問に答えて
とりあえず、明日ゆっくり話そうと電話を切った
疲れた…
寝よう…
元々の事件もよく知らなかった俺達は
それが、どれだけ大きな事件だったかなんて、知るはずもなかった
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